ジェノヴァという町のことを知ったのはこどもの頃、名作アニメ「母をたずねて三千里」のマルコとの出会いがそれであった。
エドモンド・デ アミーチスの描く、世界を跨いで旅をする少年の冒険ドラマに深い感銘を受けたことは言うまでもない。原作名が《クオーレ》、“こころ”の直訳であるが、その中の《アペニン山脈からアンデス山脈へ》というのがこのマルコの物語である。いったい、何度笑って、何度泣いたことであろう。
当時（1975年）、絵コンテや制作全般を手掛けていた宮崎駿は、スタッフとともにイタリアへ渡り、細かく取材をしている。我々にとってそれまで易く知ることのなかったイタリアの港町をつぶさに見せてくれたことがこども心に焼き付いて、時が流れた今でさえ新鮮さを失うことがないのであろう。
そこで知ったジェノヴァへ足を運ぶことは訪問前から楽しみであった。マルコがアメデオとともに転がるように駆けてゆく起伏のある町を、自分の目で見られるという喜びがあった。
はじめて訪れた町の印象はいまもよく覚えているのであるが、ここで最初に観たオペラのことはまったく記憶にない。カルロ・フェリーチェ歌劇場は町の高台にあって、イタリアにある歌劇場にしては珍しく馬蹄形のフォームをとっていない。
そう、たしか最初にここを訪れたのはわたし自身がここ歌劇場の舞台に上がった時のことである。
1992年、わたしがイタリアへやって来た2年目のこと、ジェノヴァで行われたイベントに参加している。スペインと連動して開催された国際博覧会（EXPO92）がそれであって、アメリカ大陸の発見から500年という節目に行われている。
歌劇場の舞台に上ったのは、ベートーヴェンの第九交響曲を演奏するため。コーラスの一員として大きな発見から5世紀を経て、今また未来への扉は開かれる、という意図を汲んで歓喜の歌を仲間たちと高らかに歌っている。
リハーサルを入れて4日ほどこのジェノヴァに留まったであろうか。自由になる時間を見つけては、はじめての町を探訪して、アニメの中に見ていた港の背面に鎮座する古い町並みを訪ねたものである。
ミラノに住みついてから半年ほど経ったばかりである。ミラノとはまったく異なる風貌に驚きながら、潮の香りを全身に受けて、コロンブスを生んだ町、生家も含めた異国情緒の漂う新天地を楽しんでいる。
しかし今回触れたかったことは、マルコのことでも、コロンブスのことでもなく、作曲家ヴェルディの作曲した大作、オペラ「シモンボッカネグラ」の舞台となったこのジェノヴァについて。この海洋の町とヴェルディとの関わりなどを次は話していきたい。
堂満尚樹（音楽ライター）
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