Films x Music 名作でめぐる音楽の旅 Vol.2 カルテット! 人生のオペラハウス

©Headline Pictures(Quartet) Limited and the British
Broadcasting Corporation 2012

『カルテット!人生のオペラハウス』

発売中
発売元:ギャガ
販売元:ポニーキャニオン
価格:Blu-ray ¥4,700+税

監督:
ダスティン・ホフマン
出演:
マギー・スミス/トム・コートネイ/ビリー・コノリー/ポーリーン・コリンズ/マイケル・ガンボン 他

あらすじ

名優ダスティン・ホフマンの初監督作。舞台はイギリスの田舎町。のどかな大自然の中、引退した音楽家たちが暮らす「ビーチャム・ハウス」で穏やかな余生を送るレジー、シシー、ウィルフ。ところが、かつて野心とエゴで仲間を傷つけ去って行ったカルテット仲間のジーンが、新入居者としてやってくる。近く、ビーチャム・ハウスの経営難を救うために開かれるガラコンサートを成功させるべく、誰もが伝説のカルテット復活に期待を寄せるが、かつてオペラ界で活躍した彼らも、今や認知症や持病を抱えていて、稽古すら思うようにいかない。さらに、過去の栄光に縛られたジーンは歌を封印してしまう。果たして伝説のカルテットは再結成なるのか―。

ヴェルディに学ぶオペラの世界と
憩いの場を巡る旅

音楽に悩み、音楽に救われる人生

ホームの存続を懸けて開催するガラコンサートに向け、懸命に準備を進める入居者たち。目玉のプログラムは、かつての四大スターによるカルテット『美しき愛らしい娘よ』です。しかしこのカルテット、一筋縄ではいきません。認知症で場を騒がせるお茶目なシシー、ホームのスタッフを片っ端から口説くウィルフ、若かりし頃結婚し、たった9時間で離婚してしまったレジーとジーンの関係性など、個性溢れるメンバーによる人間ドラマがコメディータッチで繰り広げられる一方で、特に大スターとしてその名をはせていたジーンが、今は老いた体とかつての栄光のはざまで葛藤する姿が、生々しく描かれています。
常に厳しい批評の目にさらされ、歌うことをやめてしまったジーンに対し、レジーが提示したのは「芸術作品とは無限の孤独であり、さまつな批評など手が届かないものである」という格言。彼らの現役時代が劇中で語られることはありませんが、控えめに「ありがとう」と言ったジーンとレジーの間には、お互いに似た景色を見てきたからこそ共有できる苦楽があり、戦友にも近いような関係性であることがうかがえます。

さて、劇中で企画されていたコンサートは、19世紀ロマン派の人気作曲家としてオペラ史においても重要な役割を果たしたジュゼッペ・ヴェルディ生誕200周年を祝うものでした。
実は入居者の役で出演しているメンバーの多くが実際の著名アーティストたちであることは、本作の大きな見どころの一つ。劇中では≪椿姫≫から『乾杯の歌』、≪トスカ≫から『歌に生き、愛に生き』、≪ミカド≫から『学校帰りの三人娘』などが彼らによって見事に演奏されています。監督を務めた名優ダスティン・ホフマン氏がメイキング映像内で「人生がその人の顔を作る」と語っている通り、彼らの表情はとても豊かで生き生きとしており、作品のテーマに奥行きをもたらしています。

メインストーリーに直接関わるところではありませんが、序盤でレジーが学生を相手に講義をするシーンも印象的です。彼らが好んで聴くのはレディ・ガガやラップ、ヒップホップなど。これらは一見、オペラとは縁のないもののように思えますが、レジーは「かつてオペラの観劇スタイルは、普段着で食べ物やお酒を持って入り、物を投げたりする人もいたほど大衆的なものだった」と説明します。さらに、「オペラとは誰もが内面に持つ感情の激しいとばしりなのだ」と話すと、それを聞いた若者が、「オペラとラップは同じ、痛みを語る人間の内側からのサインだ」とラップで返答。これにはレジーも他の学生たちも、視聴者である私たちもハッとさせられます。オペラは今でこそ敷居の高いイメージですが、どんな年代やジャンルでも、音楽が表現しているのはシンプルに「人間の内面」なのだということは、この映画が語りたかったメッセージの一つなのではないでしょうか。

イタリアの「歌劇王」の軌跡をたどる

  • スカラ座
  • スカラ座の内部
  • スカラ座博物館

今回ご紹介するのは、数々のオペラの名曲を生み出してきたヴェルディゆかりの地です。
まずは、彼が活躍したイタリア・ミラノから、歌劇場「スカラ座」。舞台芸術の最高峰として知られるスカラ座は、オーストリアの女帝マリア・テレジアの意向で作られ、1778年に竣工しました。この場所で数多くの音楽家が作品を発表し脚光を浴びてきましたが、ヴェルディにとってもスカラ座はホームとも呼べる劇場。特に1842年に出世作として知られる≪ナブッコ≫の初演を行ってから、1871年の≪アイーダ≫までのおよそ30年間は“ヴェルディの時代”と呼ばれるほど、愛国心が強く反映された作品を発表し、イタリア・オペラの礎を築きました。
劇場中央の豪華絢爛(けんらん)なシャンデリアや、パルコなどが存在感を放っているため、一部の上流階級の社交場というイメージを抱きがちですが、建設当時から「天井桟敷」と呼ばれるリーズナブルな立ち見スペースを有し、誰でも身近に観劇を楽しむことができました。この天井桟敷は今でも大変な人気で、当日券しか出ないため常連客は早くから列を作ります。旅行で訪れるなら一般席を事前に予約しておく方がよいでしょう。人気の演目はすぐに売り切れてしまうので、計画的に入手してください。
※郵船トラベルではチケット代金込みの鑑賞ツアーを企画・実施しております。

併設されている「スカラ座博物館」もぜひ立ち寄りたいスポット。長らく使用されてきた楽器や舞台衣装、肖像や彫像などのコレクションが展示され、スカラ座の歴史を身近に感じることができます。

本作の舞台「ビーチャム・ハウス」のもととなった施設、「音楽家のための憩いの家」もミラノに位置しています。これは、1896年にヴェルディが他の音楽仲間の恵まれない最期を憂い、私財を投じて建てたもの。ジャーナリストからの「一番好きな作品は?」という問いに対し、この施設の名前を挙げたというほど、彼にとっては大切な場所です。ミケランジェロ・ブオナローティ広場に面して立ち、ヴェルディ夫妻のお墓もここにあります。広場中央にはヴェルディ像。建築・設計を担当したのはアッリーゴ・ボーイトです。若くしてヴェルディ作品の作詞を行うなど、台本作家、オペラ作曲家としても頭角を現し、ヴェルディとはライバル関係にあったともいわれています。現在も音楽学生を受け入れ、レッスンや、元トップアーティストとの交流が行われています。
なお、実際のロケ地に使用されたのはここではなく、ロンドン郊外のタプロウにある「ヘッソー・ハウス」。こちらはイギリス王ジョージ3世の母であるオーガスタが住んでいた邸宅で、ジョージ3世や彼の孫に当たるヴィクトリア女王も度々、訪れていたという王室に深い関わりがある場所です。

  • 音楽家のための憩いの家
  • 音楽家憩いの家礼拝堂

各地で出会う、ヴェルディのオペラを堪能

  • ブッセート ヴェルディ像
  • パルマ レージョ劇場
  • オペラ リゴレット

現地でたっぷりヴェルディの世界に浸りたいと考えている人は、スカラ座だけでなく、「ローマ歌劇場」や、ヴェルディの出生地ブッセートにある「ヴェルディ劇場」まで足を延ばしてオペラ鑑賞をするのもよいですね。少し小さめの劇場で、スカラ座とはまた違ったぜいたくな時間を過ごすことができます。ヴェルディの誕生月である10月にイタリアを訪れるなら、ブッセート近くのパルマという地で開催される音楽祭「ヴェルディ・フェスティバル」も外せません。主催であるパルマ王立劇場をはじめ、周辺の会場でもヴェルディ尽くしのプログラムが連日上演され「ビバ、ヴェルディ!」の掛け声が飛び交うなど、街中が熱気に包まれます。この街はパルマハムやパルミジャーノ・レッジャーノが名物である美食の街としても知られており、耳も胃袋も満たされる至福の旅になることでしょう。

イタリアにおいてヴェルディの存在は本当に大きく、ヴェルディの名を冠した施設や通りも多数、存在します。映画の登場人物たち同様、ヴェルディの音楽のとりこになったなら、ぜひイタリアへ足を運んでみてはいかがでしょうか。

  • パルマ市街
  • パルマ名物の生ハム
  • パルミジャーノ・レッジャーノ

現地を訪ねたら見逃せない、
みどころと名物

  • ミラノ大聖堂
  • ミラノのトラム
  • ヴェルディ生家

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