Films x Music 名作でめぐる音楽の旅 Vol.5 不滅の恋 ベートーヴェン

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『不滅の恋 ベートーヴェン』

発売中
発売元:ハピネット
価格:Blu-ray¥3,800+税

監督:バーナード・ローズ
出演:ゲイリー・オールドマン
   ジェローン・クラッベ
   イザベラ・ロッセリーニ 他

あらすじ

生涯、独身を通したルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。彼は1827年、遺書に「全財産を不滅の恋人に残す」と記し、人々に惜しまれながらこの世を去った。果たしてその恋人とは誰なのか? 彼の弟子であり親友のアントン・シンドラーは、彼が関わった女性を訪ね歩き、謎解きのようにウィーンやカルロヴィ・ヴァリを旅して回る。権力を嫌い、実直で繊細な性格のベートーヴェンは、仕事にも恋愛にも真剣に対峙していた。ところが、難聴に悩まされ、周囲からは「気難しい」と誤解されていたベートーヴェン。音楽活動も恋愛も思うようにいかなかったが、そんな苦悩の中でも、数々の恋愛ドラマや名曲が生まれていき―。

街中に今も残る、ベートーヴェンの軌跡をたどる旅

情熱的な愛をささげた“不滅の恋人”とは…?

物語は、ベートーヴェンの死から始まります。その才能を皆に認められながら、気性の荒さ故に難しい人物として扱われていたベートーヴェンが、“不滅の恋人”とまで称する人物は一体誰なのか? その謎を解き明かすべく旅に出るのは、彼の“無給の秘書”を名乗るアントン・シンドラーです。手掛かりは、ベートーヴェンが恋人に宛てて書いた3通の手紙のみ。

シンドラーはベートーヴェンと関わりのあった女性を訪ね歩き、彼の不器用でも実直であった生きざまを明らかにしていきます。かつてピアノを教えていた令嬢、ジュリエッタ。難聴に苦しむベートーヴェンを支えたエルデーティー伯爵夫人。そして、亡くなった弟の妻・ヨハンナ。物語が進むにつれ、才能の陰に隠されたベートーヴェンの苦悩や、知られざる恋模様が徐々に明かされていくのです。

“不滅の恋人”とはすれ違いを重ね、ついには聴力を失い…。深い絶望の中で、ベートーヴェンがピアノに耳を押し付けながら≪ピアノ・ソナタ第14番 月光≫を奏でるシーンは、残酷さと美しさが共存する名シーンでした。 劇中に登場する楽曲は、グラミー賞を31回受賞しているサー・ゲオルグ・ショルティが指揮を執り、演奏はロンドン交響楽団ほか、ヨーヨー・マ、エマニュエル・アックスやマレイ・ペライアなど、そうそうたるメンバーが担当しています。冒頭の荘厳ミサ曲≪キリエ≫から最後の≪アニュス・デイ≫まで、ベートーヴェンの生涯をたどりながら、彼の生み出した不朽の名作を存分に堪能することができるのも、本作の魅力といえるでしょう。

  • ベートーヴェン直筆の楽譜

ミステリアスな“引っ越し魔”が愛した音楽の都

  • ウィーンの街並み
  • アン・デア・ウィーン劇場
  • ハイリゲンシュタットの風景
  • ハイリゲンシュタット
    「ベートーヴェン博物館」

ベートーヴェンは17歳の時にドイツからウィーンに移り住み、その後亡くなるまでの35年間をこの地で過ごしました。気性が荒いためか隣人トラブルが絶えず、かなりの“引っ越し魔”だったベートーヴェンは、ウィーン内ではなんと70回以上も住まいを変えたといわれています。 代表的な元住居の一つが「ベートーヴェン記念館」として親しまれる「パスクァラティハウス」。彼の円熟期の住処で、≪エリーゼのために≫や≪交響曲第5番 運命≫は、ここで作曲されました。当時使用していたピアノや直筆の楽譜、数々の肖像画が展示されているほか、楽曲を視聴できるスペースもあります。

≪運命≫≪田園≫などの初演を飾った「アン・デア・ウィーン劇場」も、一時期はベートーヴェンの仮住まいでした。ウィーンの歌劇場はウィーン国立歌劇場やフォルクスオーパーがよく知られていますが、このアン・デア・ウィーン劇場もモーツァルトの時代からある由緒正しき劇場。戦後、改装を経てしばらくミュージカル劇場として活躍していましたが、2006年以降は再びオペラやコンサートを上演するようになりました。公式サイトからチケットを購入することができるので、気になる公演があればぜひ訪れてみてください。

ウィーン郊外にあるハイリゲンシュタットにも元住居があり、現在は「ベートーヴェン博物館」となっています。難聴という、音楽家としては致命的な病気に直面し絶望したベートーヴェンは、この家で“ハイリゲンシュタットの遺書”を書きました。ベートーヴェンの生涯や建物の歴史を紹介する展示のほか、難聴が徐々に悪化していく様子を追体験できる装置や、指定の和音を弾くことで楽曲が流れる装置といった体験型の展示も多数あり、見応えは十分。併設しているショップには、ベートーヴェンにまつわるグッズが豊富に揃っています。

  • ハイリゲンシュタット
    ベートーヴェンの散歩道
  • ハイリゲンシュタット
    ベートーヴェンの散歩道
  • ハイリゲンシュタット
    ベートーヴェンの散歩道

≪交響曲第3番 英雄≫にちなんだオーストリア演劇博物館の通称「エロイカホール」や、≪交響曲第7番≫を公開初演したオーストリア科学アカデミーの「祝典ホール」などもベートーヴェンには縁の深い場所です。そして日本の年末の風物詩である「第九」こと≪交響曲第9番≫の初演は、1824年に今はなき「ケルントナートーア劇場」にて行われました。そのころには演奏終了後の盛大な拍手も聞こえないほどベートーヴェンの聴力は失われており、歌手の一人が聴衆の様子を見せたことで、彼はその成功を知ったともいわれています。現在、跡地にはザッハトルテで有名な「ホテル・ザッハー」が建設されています。カフェ文化が無形文化遺産として登録されているウィーンの街で、伝統的なケーキ「ザッハトルテ」を楽しむのもお勧めです。

  • オーストリア科学アカデミー
  • クリスマス・シーズンのホテル・ザッハー
  • ザッハトルテ
  • ケルントナー通り
  • シュテファン大聖堂
  • ベートーヴェン広場の彫像

名だたる作曲家たちが訪れた療養の地

  • カルロヴィ・ヴァリ
  • パステルカラーの街並み
  • コロナーダ

ベートーヴェンが“不滅の恋人”宛てにラブレターを書いた場所である、チェコの温泉地「カルロヴィ・ヴァリ」は、首都プラハから130kmほど西にあるドイツ国境近くに位置しています。彼だけではなく、ドヴォルザークや、ショパンなども療養に訪れたといわれているこの地。

パステルカラーの建物が並ぶメルヘンチックな街並みにも目を奪われますが、何といっても特徴的なのは、ここでは温泉が温浴療法だけではなく“飲み物”としても親しまれているということ。街のいたるところに「コロナーダ」と呼ばれる飲泉所があり、温度や味が異なる温泉水を飲み比べることができるのです。本格的に療養したい場合は、専門家であるスパドクターに診察してもらい自分に適した源泉を選ぶことで、ミネラル豊富な温泉の成分をより効果的に取り入れることができるのだそう。チェコを訪ねる際には、名だたる音楽家たちが楽しんだ温泉地へぜひ足を延ばしてみてください。

現地を訪ねたら見逃せない、
みどころと名物

  • シェーンブルン宮殿
  • ウィーン国立歌劇場
  • ウィーン楽友教会
  • ウィーンのトラム
  • ウィンナーシュニッツェル
  • ターフェルシュピッツ

2020年は生誕250年~ベートーヴェンへの旅

生誕250年を迎える2020年に向けて楽聖ベートーヴェンにゆかりの都市ではさまざまなベートーヴェン・プロジェクトが動き始めています。宮廷楽師として活躍した生地ボンとピアニスト・作曲家として活躍し音楽界の頂点をきわめた街ウィーンが競うように「BTHVN2020フェス」への準備を進めているようです。しかし、ベートーヴェンの重要な足跡はこのふたつの都市だけに遺されているわけではありません。生涯にただ一度だけベートーヴェンは半年近くに及ぶ音楽旅行をしています。1796年2月にウィーンを発ち、プラハにふた月ほど滞在した後、ドレスデンを経てライプツィヒに赴き、ここに3週間ほど滞在してからベルリンに迎い、5月下旬から7月初旬までこの地で注目すべき音楽活動をしています。
今回のツアーはこの1796年のベートーヴェンの旅の足跡を逆方向から辿るものですが、
二日間のプラハ滞在では、1812年にベートーヴェンが「不滅の恋人」への手紙を書き、しばしの逢瀬に胸躍らせたであろう温泉保養地カルロヴィヴァリ(旧名カールスバート)とテプリーチェ(旧名テープリッツ)を巡り、同時に文豪ゲーテと肩を並べて散歩を楽しんだ小径なども訪れます。
出発地ベルリンではBPO、到着地ウィーンではVPOという世界二大シンフォニー・オーケストラ、そして、旅程に沿って、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、ドレスデン国立歌劇場管、チェコ・フィルハーモニー管という世界に名だたる名門オーケストラの演奏会も組みこんだオーケストラ巡りのツアーにもなっています。

(2019年3月出発 音楽評論家 平野 昭と行くベートーヴェンへの旅より/(文)平野 昭)


ボン・ベートーヴェン音楽祭

“楽聖”ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。 このコラムを読んでいただいている皆さんに、いまさらここに書くようなことはないでしょう。 しかし彼が生まれ、ウィーンへと旅立つ22歳まで、その音楽の素養を育んだドイツの街、ボン ── このボンで、彼を顕彰する音楽祭が毎年初秋に催されていることをご存知の方は、あまり多くないのではないでしょうか。…もっと見る


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